抵抗の女(ひと)・イーディス・キャベル
抵抗する人びと
高見 安規子
1
1東大看護学校
pp.72-76
発行日 1971年11月1日
Published Date 1971/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661916179
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■2人の男たち
9月のある夜,イクセルの看護学校の婦長室には,めずらしく3人の男の訪問客があった。そのうちの1人はまもなく去っていったが,足に大けがをしてびっこになったベルギー紳士と,顔に傷のあるせむしの労働者はそのままとどまった。彼らは,傷の重さはいうまでもないことながら,ほとんど極限にまで達している疲労と衰弱の度合からいっても,即刻入院させなければならない状態であった。イーディスの命令で,看護婦たちは直ちに2人をベッドに運んだ。
やがて2人の患者は,母親の腕に抱かれた小児のように,深い安らかな寝息をたて始めた。看護婦たちも,久しぶりにホーム・グラウンドで務めを果たした充実感に一息つくのだった。だがほっとしたのもつかのま,先刻のマダムのささやきが思い出されたとたんに,彼女たちは言いしれぬ不安に陥った。「あの人たちはイギリス軍の逃亡兵……」だとは! すでに占領軍は,ベルギーの至る所に,「イギリス軍の逃亡兵およびそれをかくまった者は厳罰に処す」という告示を貼り出していた。それをマダムはご存知のはずなのに……。
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