連載 ナースのための心理学入門 総論・2
第1章 欲求と無意識
高木 隆郎
1
1京都大学医学部精神科
pp.56-59
発行日 1966年11月1日
Published Date 1966/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912934
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1.環境への適応
生体(有機体,organism)は自己をとりまく環境と相互的な作用をいとなみながら,その生命現象を維持しつづけています。たとえば,1本の草木でも,肥料とか栄養とかいわれる有機・無機の化合物(酸素や水なども含めて)を吸収し,しかも一定の温度や採光条件の範囲内で,成育,開花,結実という過程をたどっていることは申すまでもありません。それら無数の条件のうち,どの一つが欠けても発育は不健康になり,ときには枯死するかもしれません。そして,緑色植物なら光のエネルギーによって空気中から摂取した炭酸ガスと,根から吸収した水分とで炭水化物を合成するといういわゆる同化作用の一方,これは同時に酸素を外気に放出するという作用も営んでいるわけで,たんに,環境《から》の働きかけをうけるだけではなく環境《への》働きかけも行なっているのです。
動物ではこの生体側からの環境への働きかけがいっそう積極的かつ動的になり,たとえば昆虫や鳥の巣づくりにみられるように,周囲の環境を自分で加工したりします。まして,人間のばあいには広い意味での思想とか宗教とか,教育,政治など一般に《文化》と呼ばれるものによって,人間が人間の社会自身,あるいはその文化自身をも変革しようという,より複雑な形をとります。
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