患者と私
病人をなおす
高島 令三
1
1日本通運東京病院
pp.1696-1697
発行日 1966年12月20日
Published Date 1966/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407204177
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医者も人間であれば患者も人間である.人間には動物にはない感情というものがある.そこで病気を治す職業である医者ではあるが,病気だけを治すのでは完全な医者とは言えない。もう一歩進んで,病人を治す医者でなければならない.病気さえ上手に治せばそれでいいではないか,さらに病人を治す,とは一体どういうことかと思われる若い医者があるかも知れぬから,一寸この点を説明すると,病気だけを治すのでは,患者はまだ心からその医者を尊敬,信頼する段階に入つていないのである.病気が治つてからもその本人はもちろん,家族親類の者までが何かというと訪ねてやつて来,またその医者が言うことなら何でも絶対に信用するという段階,つまり自分の体はすべてこの医者にまかせ切つてあるという心情にまで達したとき,さらにはこんないい結果の場合のみならず,たとい予後が不良の場合でも,患者が死ぬ瞬間までその医者を信頼し,その医者に感謝しながら死んで行かれるという,そういう医者がすなわちほんとうに病人を治したことになるのである.これで始めて完全な医者といえる.
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