文学
好色なる反逆精神—舟橋聖一の文学
平山 城児
1
1立教大学文学部
pp.74-75
発行日 1964年7月1日
Published Date 1964/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912310
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以前近所に文学好きな,おてつだいさんがいた。文学好きといっても,妙にインテリぶったり,とりすまして詩人気どりでいたりするのではなくて,なんとなく折にふれて,文学の話などをするのが好きだという程度だった。ふだんはあまり小説も読まない。まして月刊雑誌を購読することなど,めったになかった。ところが,そのおてつだいさんが,毎月待ちかねるようにして,「小説新潮」を求めるようになった。それは,そこに,舟橋聖一の<夏子もの>が連載されはじめたからである。雑誌を買ってくると,彼女は夢中で読んでしまい,もう次号を心まちにしている。夏子の運命がどうなって行くか,ただそれだけが心配だという有様だった。それに,徹底していることには,彼女は,その雑誌を買っても,<夏子もの>しか読まなかったのである。だからといって,彼女が昔からの舟橋文学のファンであったわけでもない。ただただ<夏子もの>のファン,それも熱狂的なファンであったのである。
いま,そんなことを,ふっと思いだしたので,舟橋聖一の年譜をくってみると,〈夏子もの〉の第一作〈芸者小夏〉は,昭和27年に発表され,以後11年間連載されたと書いてある。11年も連載されたというのは,やはり,それだけ読者に魅力があった証拠である。そのおてつだいさんが,その後,舟橋文学のファンになったかどうかは,知らない。
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