とびら
「光のように風のように」に寄せて
田中 寿美子
pp.13
発行日 1963年3月1日
Published Date 1963/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911869
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昨年の8月,私は吉田タキノさんの著書,「光のように風のように」を送っていただいた。私は昨夏のとくべつの暑さと,またとくべつの忙しさのために,評判のこの著書を,読もう読もうと思いながら延引していた。先ごろ,講演旅行の列車の中で読み出して,ついに手放すことができず,出先きの宿で,夜をあかして読んでしまった。看護婦さんたちはみんな読んでいられるにちがいない。もしそうでなかったら読むべき書だと思う。いや,看護婦さんだけではない,すべての人に読んでもらいたいと思う。何ともいえない,恐ろしい迫力のある書だ。
結核に生命をもやしつくしてしまう1人の女性のけなげな斗いと,それをそばで,全力をつくして心身をすりへらしてみとる人の付添看護婦の斗い—それは,何ということばでいい表わしてよいのかわからないほど,凄絶なものである。そこにはもはや,看護という仕事,病との斗い,というものの姿よりは,生命そのものが,むき出しにみえるのである。その生命の前で,無力な人間が,それでも徹底的に,最後の瞬間まで生命の炎の絶えることとたたかわねばならない,それが人間にあたえられた義務なのである。その義務を100パーセントに果たそうとしたこの患者とこの看護婦のたたかいに,私は頭を垂れて,敬意を表さないではいられない。
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