ナースの作文
祈り,他
窪田 裕子
1
1国立療養所鹿児島病院附属高等看護学院
pp.49-53
発行日 1960年6月15日
Published Date 1960/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911113
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
試験切開して1週間,臥床安静の最も困難とされていたO君が寝具を首まですつぽり被り,足先からではちよいとだれか分らないくらい,おだやかに身を横たえている。
O君を知つたのはたしか去年の夏だつたと記憶する。南向の自分の室にいたたまれず,北側の友の室でトマトなど噛りながらだべつていると子達の声に混つたダミ声が聞える。子らは銀杏捨いにやつて来たのだ。毎年訪れるとか,慣れた手付で捨い集めている,かぶれるだろうに素手である。ダミ声の主は?と見ると塀の向うで背を丸めた妙な恰好の一見与太者風の子が大声でしやべつていた。すごいダミ声で,どうも一癖ありそうな面持の,ごく最近分病棟に入つたクランケのよし。それがO君だつたのである。その日以来,窓から毎日のようにO君を,しかも外出する姿を見掛けるようになつた。今まで気付かなかつたのが不思議なくらいである。
Copyright © 1960, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.