扉
あとは神に祈るのみ
石井 鐐二
1
1川崎医科大学脳神経外科
pp.809
発行日 1988年6月10日
Published Date 1988/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436202641
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新年早々,医師賠償責任保険の契約手続きの通知状が届いた.この時期になると更新しようかどうしようかと迷ってしまう.なぜなら,多くの医師が医療事故を恐れるのは,経済的理由もさりながら,むしろ原因となった自らの医療行為についての後悔と社会的非難に対する苫悩,やりきれなさを思うからである.アメリカでは医療訴訟が急増し,これに対しての賠償保険の掛金も年々高くなっており,1982年から85年までの3年間で外科医の払う年間の保険料率は81%も上がって1万ドルを超えたという.ことに掛金の一番高いのが神経外科医というから,彼の地の仲間達の悲鳴が聞こえてくるというものである.正当な医療を行うために最善を尽くすべきであって,賠償保険にきゅうきゅうとせざるを得ないこと自体がおかしいなどと慨嘆しつつ,今年も掛金を払い込んだ次第である.
ことのついでに,医療訴訟に関して2,3の本を読んでみて驚いた.我々医師が病人のためによかれかしと行った医療,例えば投薬にしろ,注射や手術にしろ,すべて侵襲的行為であり,医療行為そのものが本来違法的なものであるらしいことを初めて知った.医療行為が両刃の剣と言われる所以でもある.外科医が人のからだにメスを入れることには,目的がその人の生命を救い,苦痛を取り去ることにあるにしても,人の能力範囲内で行われる以上,誤りのあり得ることは忘れてはなるまい.
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