講座
自分のためを考える必要について
いぬい たかし
1
1法政大学
pp.37-40
発行日 1956年6月15日
Published Date 1956/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910998
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私は“心理学者”とよばれる人間の一人ですが,ここで“心理学”の講義をはじめるつもりはありません。お講義は養成所だけで充分だと思うからです。あなた方にしたつて,こんなところでまた“心理学概論”と再会したりするのを愉しいとお感じにならないでしよう。私にしても,知覚がどうしたとかコムプレクスがどうなつた,などというお話からは解放されたいのです。
けれど,時間というやつは,こつちが忘れていても,ちやんとひとりで歩き続けるもので,“心理学”という専攻を選んでから,いつの間にか1/4世紀近くたつてしまつた私のことです。そうしてまた,習慣というものは,いくらヨソヨソしく扱つてやつたつもりでも,時間といつしよに体の中へ食いこんでくるものなので,世間話をするつもりでも,ついお里が出て,“心理学”みたいになることがあるのは仕方がありません。しかし,そんな場合でも,当人は別に学問の講義をしているつもりはないのですからお許しぐださい。もつとも,あなた方の方にも,何かといえば,“……ロギー”とくつつける習慣がしみ込んでしまつているのならやむをえません。これから“Mandanologie”漫談論議をはじめますとでも申しましよう。
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