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女の十二ヶ月—七月・星と女
村田 修子
pp.42-44
発行日 1955年7月15日
Published Date 1955/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909873
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星のまたたきはトミ子にとつて愛の夢を奏でる音楽であつた。との七月でトミ子は三十五になるのだが,戀愛も結婚も,もう二度としまいとあきらめている。
トミ子は女学校を出ると,自分の家に近い村役場につとめ,その頃,祖父にあたる老村長の家に夏休みであそびに来ていた青年と知り合い,愛し,愛される間柄になった。青年の家は東京で,次の年の夏休みにも彼は祖父の家にやつてきた。そして二人の間に結婚がひそかに約束された。彼の大学卒業と就職,それと同時に結婚式も秋を待つて……というとこまで進展したのに,彼からの最初の就職の感想をかいた手紙がきた日,高等学校に入つたばかりの弟が受験のための過度の勉強がたゝつたのか,高い熱を出して倒れたのであつた。医者の診察はろくまく,そして入院ということになつて,そのつきそいの役目を彼女はしなければならなかつた。(母は父を助ける農婦であるし,姉は名古屋に嫁いでいた)。勿論,弟は秋のトミ子の結婚式までには癒るものと思つていたのが遂に療養所行になつてしまつたのである。つまり結婚式はのばされたのである。沼津の彼女の家と東京の彼の家との中間にある海岸の療養所の近くの砂丘で,一月に一度,トミ子は彼と会った。それは附添看護につかれる心と体をさゝえてくれるたゞ一つのなぐさめであり,生甲斐であつた。二つの若い情熱は,海岸の砂丘で,或時は静かに,或時は激しく燃えた。
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