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女の十二ヵ月—二月・火と女
村田 修子
pp.45-47
発行日 1955年2月15日
Published Date 1955/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909751
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埋火をかきおこしつつ 女ひとり
つぐ炭もなく ただ 春を思う
部屋の隅の机の上にこうはしりがきした1枚の紙きれがのつていて,2枚の障子をとおして,ほんのり戸外のうすい光りが感じられるだけの部屋であつた。もう,学校でも病院でもデパートでもオフィスでもそれぞれ仕事が動きだしている時間なのに弘江は火鉢にただかじりついているより外にするすべがなかつた。40を過ぎた女に出来るつとめといえば看護人か勸誘員か,ミシンの縫子か,家政婦か,土地家屋あつせん所の事務員位のものであつた。弘江はこの5カ月の間にそういうつとめはみんなやりつくしてきていた。だから外に自分の出来る仕事として考えてみる何ものもなかつた。いやもう何をする気力も失つてしまつたといつた方があたつているかもしれない。
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