名詩鑑賞
道程—高村光太郞
長谷川 泉
pp.26-27
発行日 1953年1月15日
Published Date 1953/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907223
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近代詩に輝かしい足跡を殘した「道程」の詩人高村光太郞は,いま中野の桃園町の故中西利雄畫伯のアトリエで「湖畔の裸像」の作製に餘念がない。本来の彫刻家に返つたのである。十和田湖畔にたてられる豫定のこのブロンズの女體裸像は,十和田湖畔が国立公園に指定された記念と,同湖に今まで功勞のあつた人人を顕彰する意味で,建てられるものだという。
光太郞は戰時中かなり多産な詩作活動をしたが,それは「道程」の詩人の光彩に多きを加えるものではなく,むしろ彼の名聲を否定する方向のものが多かつた。それかあらぬか,彼は終戰の年の秋以来世の中から隠退する心境で,岩手縣稗貫郡太田村の人里離れた小屋の中に,唯一人自炊生活を送つてきた。一切の制作から離れていた光太郎は今や70才を越え,7年の風雪にたえ,嚴しい孤高の自己批判をへたのち,再び燃え上る藝術的意欲に,かられたのである。
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