恩師の頁
谷口彌三郞先生
岡島 寬一
1
1熊本市衞生局
pp.34-36
発行日 1952年10月1日
Published Date 1952/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200195
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私が谷口先生に初めてお目にかかり,次いでその御指導御愛顧を蒙るようになつたのは大正7年のことだつたから,数えてみれば既に34年,実に長いものと云わねばならない。従つて先生に就いて語るとなると,その話題は山ほどもあるのだが,さて紙数と期日とを制限されて「さア書け」と云われると,何だか筆が進みにくい。
人間には生れつきの賢愚があり,爾後の運不運もあつて,その人の人生を左右することは勿論で,先生の場合もそうした事があるのは否み難いが,然し先生の歩み来られた道を静観すると,それは正に努力の二字に盡きている。明治16年8月13日,香川県の一農村に孤々の声をあげられた先生は,そのままでは決して惠まれた境遇ではなく,幼にして既に苦難と努力の道を踏んで居られる。明治35年,年歯僅かに20歳にして熊本医学校を抜群の成績で卒業——その当時のことを私は故山崎正董先生からよく聞かされたものだが,「講義を受けるとき,近藤(先生の旧姓)はいつもきまつて最前列の机に来て,極めて熱心に聽講筆記していたもので,こいつ確かに見どころのある奴だと思つたよ」と,あのヤカマシヤの山崎先生が感心されたそうである。
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