連載 詩人の話・9
高村光太郎の愛情
山田 岩三郎
pp.66-69
発行日 1963年3月1日
Published Date 1963/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911889
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千鳥と遊ぶ智恵子
人っ子ひとり居ない九十九里浜の砂浜の砂にすわって智恵子は遊ぶ無数の友だちが智恵子の名をよぶ。ちい,ちい,ちい,ちい,ちい—砂に小さな趾あとをつけて千鳥が智恵子に寄って来る。口の中でいつでも何か言ってる智恵子が両手をあげてよびかえす。ちい,ちい,ちい—両手の具を千鳥がねだる。智恵子はそれをぱらぱら投げる。群れ立つ千鳥が智恵子をよぶ。ちい,ちい,ちい,ちい,ちい—人間商売さらりとやめて,もう天然の向うへ行ってしまった智恵子のうしろ姿がぼっんと見える。二丁も離れた防風林の夕日の中で松の花粉をあびながら私はいつまでも立ち盤す。
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