滲透教育講座
疫痢の提起するもの
中溝 保三
1
1都立荏原病院
発行日 1952年6月15日
Published Date 1952/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907083
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まえがき
他の社會でもそうであるが,われわれ醫療行爲に關係するものは,常日頃實に種々雑多な制約にしばられていることを感ぜずにはいられない場合が多いものである。法律的な制約。これ一つだけでもかなり面倒でしかも不用意に犯す危險があり,犯せば罪は輕くはない。經濟的な制約,單に高價であると云う理由のために是非にもしてやりたい診療をすることのできない場合がいかに多いことか。施設,器材のよしわるし,不充分からもたらされるさまざまなワク,更に直接診療に關連する知識,技術のレベルが導く限界と可能性,かてて加えて献身,奉仕の言葉に代表されるヒユーマニテイーへの要請等々,洵に複雑多岐であると云わねばならない。そして,これらの制約なり要請なりが,お互いに過不足なく協調して行つた時に始めて醫療行爲は圓滿に遂行せられるのである。この場合にも又CO=Operation協同動作が大きな社會の一つの歯車がうまく連轉されてゆくための潤滑油の役目を果すことになつている。
病氣の種類によつて,この制約と要請の組合せのあらわす場の形は勿論多種多樣であり,場の形の深さも廣さもそれぞれ特徴がある。急性傳染病だけについて云えば,現在の日本に於ては,赤痢,疫痢がその内でも最も深く,最も廣いひろがりを持った場の提供者であると云うことができそうである。
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