特集 赤痢(Ⅱ)
疫痢の疫学
山下 章
1
1東京都衞生局防疫課
pp.19-22
発行日 1954年8月15日
Published Date 1954/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201438
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病原論的根拠にもとずいて疾病を分類することは或は最も正当を得たことかも知れないが,臨床的所見を離脱した病名というものも実際上の立場からは意味が乏しくなつてくる。
疫痢の場合にあつては,特殊病原菌説或は小兒重症赤痢説等諸学者の間にいろいろの説が行われてきた。また最近では疫痢の成立には必ずしも赤痢菌の存在を必要としないという立場をとる学者も少くないようである。しかしながら今日の一般医学常識では疫痢とは特異な症候群をもつた赤痢の1型と考えられている。そこで赤痢の疫学における伝染源,伝染経路の問題は疫痢の場合にも共通し得るものと解している。ただ欧米では多少脳症をあらわす重症赤痢の記載はあつても,われわれのいわゆる疫痢に適合するような報告は甚だ稀であり,殆んど日本の小兒に限つてかかる病型が頻繁に見られるという疾病地理学上の特異性からみても,病源体に対する個体の特殊な反応即ち疫学でいわゆる感受性の問題は赤痢とは別個に考えるべきであろう。このことは疫痢本態の究明に来朝したDodd等(1947年)の刺戟もあつて,このところ生体病理の面から研究が活溌に続けられているが,問題が体質とかこれに関連して栄養,嗜好,気象,風土等というようなことになると結論は甚だ困難のようである。従つて本稿ではそれらのことからしばらく離れて,東京地方における疫痢の流行状況について少しく検討を加えて実際防疫の参考に供したい。
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