連載 驚きの「介護民俗学」・1【新連載】
「テーマなき聞き書き」の喜び
六車 由実
Yumi Muguruma
pp.74-79
発行日 2010年3月1日
Published Date 2010/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101600
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生き地獄
デイサービスの介護職に就いてから2か月がたったころだった。食事介助をしているときに、利用者の山本一夫さんが、「こんな年寄りになってただ生きているのは地獄同然だ」と呟いた。何の役にもたたず、他人の世話になっているばかりじゃ生きている意味がない、だから地獄だ、と。
大正5年生まれの一夫さんは、足腰が弱く押し車を使って移動されているが、食事、排泄、入浴は自立しているし、普段はにこにことしていて、レクリエーションなどにも積極的に参加してくれ、声をかけるといつも昔の暮らしのことを語ってくれる。だから、彼の口から「生き地獄」などという言葉が出てくるとは私は想像もしていなかった。
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