連載 臨床の詩学 対話篇・1【新連載】
苦戦中
春日 武彦
1
Takehiko Kasuga
1
1多摩中央病院・精神科
pp.64-71
発行日 2009年11月1日
Published Date 2009/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101535
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たとえば、こんなケースはどうであろうか。
29歳男性のN氏は統合失調症で、外来へ通院していた。一度だけ入院歴もある。ここ二年ばかりは安定しており、作業所にも通っていた。ところがいつの頃からか怠薬するようになった。次第に夜と昼の生活パターンが逆転し、引きごもりがちとなり、さらには怒りっぽくなった。ぶつぶつと独り言が出るようになり、ときには壁に向かって怒鳴っている。もちろん外来には通院しなくなった。明らかに症状が再燃している。
家族も心配し、無理やりにN氏を外来へ連れて来た。担当医であるわたしは、外来レベルの対応では追いつかない状況と判断し、本人へ入院を勧めた。しかしN氏は入院を拒む。精神科病院に閉じ込められるなんてまっぴらだ、人権侵害だ、と声を荒げるのである。わたしとしては、できるならば本人自身に承諾してもらって穏便に入院させたい。外来およびその周辺には、たくさんの患者さんや家族が診察や書類や会計を待っている。そうした場所で、力づくの入院は避けたい。
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