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―夏井先生のホームページ「新しい創傷治療」を参考にしています.このページの「消毒とガーゼ撲滅宣言」には,かなりインパクトを受けました.なぜ,「消毒とガーゼ」は,“反医療行為”なのでしょうか.
夏井 「消毒とガーゼ」は,本当に意味があるのだろうか.このことに思いあたったのは,研修医2年目のときです.大腸の癌手術では癌を切除し,大腸を吻合し,皮膚を縫合しておしまいですよね.次の日からは回診で,毎日縫合創を消毒します.なぜ,縫合創の消毒をするのでしょうか.おそらく「縫合創の化膿を予防するため」でしょうね.でも,考えてみてください.いちばん化膿して困るのは,大腸の吻合部です.しかも,腸内には大腸菌の塊である排泄物が通っています.しかし,誰も開腹して吻合部を消毒しようとはしませんし,実際,大腸吻合部が化膿して縫合不全を起こすことは稀です.「なぜ,細菌だらけの大腸吻合部は消毒しないのだろう.しかも,消毒しなくても化膿しない.なのに,皮膚表面だけ消毒するのはおかしいぞ」と疑問に思ったのがきっかけでした.
史上初めて消毒をしたのはリスター(1827-1912,英)です.彼は化膿を防ぐために傷の消毒をしました.さらに細菌は乾燥させれば繁殖しないとわかり,ガーゼで滲出液を吸収して傷を乾かすようになったのです.リスターの功績は非常に偉大です.彼によって現代の外科学が始まったといっても過言ではありません.しかし,あまりに偉大過ぎて,誰も彼を疑わなかった.その影響がいまでも続いているのでしょう.しかも,「外傷学」は日本の医学教育ではきわめて軽視されていて,外傷の治療は現場で先輩医師から学ぶしかありません.さらに悪いことに,人間には自然治癒力があって,適当にやっていてもある程度治ってしまいます.そのために外傷の治療法が見直されないまま,19世紀の方法が現在にまで連綿と受け継がれてきたのだと思います.
しかし,消毒やガーゼが原因で治らないと考えられる傷が少なくないのです.
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