特集 生殖補助医療
語られない不妊:不妊の現状と治療の実態
長沖 暁子
1
1慶應義塾大学生物学教室
pp.126-130
発行日 2002年2月25日
Published Date 2002/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902817
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なぜ不妊であることは隠されるのか?
不妊のカップルは10組に1組と言われているが,多くの人は日常的には不妊の存在を意識していない。不妊かどうかは外からはわからないため,そもそも可視化されにくい。子どもがいないことは他者からわかる事実だが,不妊の存在が意識されない状況では,それはまだ生まれていない状態として認識されてしまう。だから子どもがいることが自明のこととして,「お子さんは?」という挨拶が繰り返されてきた。この結果,可視化されにくい不妊が,当事者にとっては隠すべき存在となってきた。
最近,少子化やさまざまな生殖医療をめぐる話題の中で,不妊はたびたび取り上げられいる。しかし,それは隣に存在するかもしれない不妊とは結びつかず,実像から離れた不妊像,生殖技術への期待を作り出していくだけである。次々にマスコミに紹介される新しい技術,「不妊のカップルに朗報」という記事を目にするたびに,頭をかかえている当事者も多い。それが自分たちにさらなる圧力になることを知っているからだ。人々が不妊治療の実態を知らないことが偏見を生み,その偏見がさらに不妊を隠すべきものにしていく。
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