連載 判例にみるジェンダー・9
胎児の権利
石井 トク
1
1岩手県立大学看護学部
pp.920-921
発行日 2001年10月25日
Published Date 2001/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902748
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胎児は人としての権利を有するかという疑問は「生命の始まりはいつか」,「権利能力の発生はいつか」などといった根本的な疑問と関連して,法律の分野でも関心が高まりつつある。
民法では人としての権利能力の始期は,出生したときとしている。出生とは,児が母体から完全に娩出したことをいう(全部露出説)。これに対して自発的に呼吸をした時(独立呼吸説)という考えもあるが,通説では全部露出説である。とすると,母体内に存在する胎児には権利能力がないことになるが,一方,民法では不法行為に基づく胎児の損害賠償を認めている。721条「胎児は損害賠償の請求権については既に生まれたものと看做す」。また,相続に関しては886条に「胎児は,相続に関しては生まれたものと看做す」としている。つまり,胎児は生きて生まれる可能性を持っていたにもかかわらず,出生の時期が遅れたにすぎない。これをもって権利能力を全く認めないことは,すでに生まれたものと比べて不公平になるという事由による。
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