連載 源流への旅
子産み子育て考・21
母乳育児再考
宮里 和子
1
,
鎌田 久子
2
,
末光 裕子
3
,
菅沼 ひろ子
4
,
坂倉 啓夫
1国立公衆衛生院衛生看護学部
2成城大学文芸学部(民俗学)
3東京江戸川区・教育相談室
4聖母病院分娩室
pp.1140-1144
発行日 1986年12月25日
Published Date 1986/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207033
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はじめに
かつて読んだ有吉佐和子の小説「紀ノ川」に,祖母が嫁入りする孫を連れて,和歌山県九度山慈尊院に詣でる一節がある。廟の前に,羽二重で丸く綿をくるみ中央を乳首のように絞りあげた乳房形(ちちがた)がたくさんぶらさがっている光景が描写されている1)。昔も今も変らぬ安産,授乳,育児を願う人々の思いがそれらの乳房形に秘められているのであろう。(この慈尊院は,本誌10月号のグラフ頁"母乳を願う"で紹介されている)
「川柳医療風俗史」によると2),幕末横浜において前田留吉がオランダ人より牛の飼育方法を学び,牛乳搾取営業を始めたが,その後明治3年芝区西久保において留吉は,東京で最初の搾乳販売を開業したという。明治10年頃の川柳に「牛の乳,母のない子も育つ御代」とあるが,人工栄養がなかった昔は乳を出すことは児の生命にかかわる重大事であった。
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