My Point of View
「刷り込み」という現象から想うこと
小林 隆
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1日赤医療センター院
pp.319-320
発行日 1981年4月25日
Published Date 1981/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205842
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この間テレビのスイッチを入れたら偶然,「刷り込み」という,動物の世界で発見された興味深い現象を解説している画像に遭遇した。面白いのでついおしまいまで見たが,途中からのスイッチオンで,初めから見られなかったのが残念に思えたほど私には印象的であった。
孵卵器の中で温められている沢山のマガモの卵に,若い女性の研究者が,人間の言葉ならぬ奇妙なウェ,ウェ,ウェ……といった発音を用いて卵に話しかけるのである。この光景からすると,間もなく殻を破って出る卵の中のヒヨコでも研究者の声を聞いたり,声色を覚えることができるらしいのである。このように,繰り返し繰り返し話しかけた卵から孵化したマガモのヒヨコを親鳥には付けないで,この研究者がこまめに身近の世話をしたり,話しかけてやると,このヒヨコは人間をすっかり自分の親と思い込んで,自分の仲間や親鳥には目もくれないで,人間の後ばかりついて歩く様子がテレビで滑稽に映されていた。この現象が「刷り込み」imprintingと言われるものなのである。ヒヨコのアヒルにひとたびこのような[刷り込み」が行なわれると,人間とだけ交わるという偏向は不可逆性で元には戻らないことが証明されている。マガモにとっては誠に深刻な問題に違いない。
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