Japanese
English
特集 遺伝子-脳回路-行動
それでも脳は想っている
And yet it thinks
入來 篤史
1
Atsushi Iriki
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター象徴概念発達研究チーム
pp.66-74
発行日 2009年2月15日
Published Date 2009/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100826
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
脳科学者の初夢
人間なら誰しも,「“私”とは何だろうか」と想わずにいられない。これを想う「心」は脳の働きで産み出される現象であり,また問うている対象の「私」とは脳の働きとしての「心」であることは誰しも認めるところだろう。最近の脳科学研究の進歩は,生物器官としての「脳」を基盤として,その汎用情報処理装置としての動作原理の追及によって,これまで自然科学と距離があると考えられてきた哲学,心理学,教育学,社会学,倫理学,経済学などの人文・社会科学の領域,さらには芸術や宗教などを含む,あらゆる人間の精神活動の所産である文化をその対象としてとらえつつある……,と期待されるようになってきた。すなわち,「心」の自然科学的解明である。その一方で,個性豊かで何者にも代え難い人間の「心」を,いわゆる自然科学の手法によって解明しようとするパラダイム自体に,人文社会科学と自然科学の双方の伝統的な考え方からは「異和感」を抱くことを禁じ得ないことも,また事実ではある。
年頭にあたって本稿では,この「期待感」と「異和感」の相克を産み出す問題点について,その所在と実体,およびそれを克服する手立てについて,人間の脳が産み出す心の働きの様式としての諸科学の作法について掘り下げながら,いくつかの(夢想的)思考実験を試みることにする。
Copyright © 2009, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.