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サンガー夫人(5)
pp.39-40
発行日 1953年5月1日
Published Date 1953/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200350
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1915年10月の或る朝,サンガー夫人はまる1年振りで思い出もなつかしいニューヨークの街に到着した。彼女はとあるホテルに旅装を解くと,早速子供たちを呼び寄せた。母親の愛情に飢えていた子供たちは歓喜して彼女を迎えたのであつたが,そういう幼い魂の喜びに接することは,やはり嬉しかつた。と同時に,1年間も放り出して置いたことに対する罪の意識にはげしく胸が痛んだ。もう二度とふたたびこの子供達を手許から離すまい,と,彼女はむせび泣きの中で強くわが心に誓つたのであつた。
彼女は数日して心の平静を取り戻すと,直ちに「全国産児調節連盟」の事務所に訪ねて行つた。気掛りで仕方がなかつたのであつたが,やはり其処の模様は,彼女の留守中に,がらりと変つていた。かつての同志や友人は姿を消し,そのかわりにデンネット夫人という人が主導権を握つていた。デンネット夫人はサンガー夫人に対しておどろくほど冷淡であり,また対立的であつた。
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