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はじめに
テクノロジーが急速に発展する現在,仮想現実(virtual reality:VR)や拡張現実(augmented reality:AR)技術は身近なものとなってきた.ゲーム,観光,教育だけでなく,医療やリハビリテーションにおいても活用され始めている.VR技術を用いることで,人はある場所にいながら別の仮想空間を体験することができ,AR技術では,実環境に新たな情報が重畳表示された状態で振舞うことができる.医療分野における用途は,手術のシミュレーションやアシスト,認知症者の疑似体験など多岐にわたるが,本稿では,高次脳機能のリハビリテーションに焦点を当て,筆者のかかわってきた研究を中心にVR,ARの医療応用の具体例について記載する.
記憶や注意,言語,計算,学習などの認知機能は人が社会生活を送るうえで重要な役割を果たしている.その機能障害は脳卒中や脳腫瘍,頭部外傷,認知症,その他精神疾患の一症状として生じ,総称として高次脳機能障害と呼ばれているが,病院の静かで統制された環境下よりも,退院後の複雑な生活場面で表れやすいという特徴がある.よって,その能力評価やトレーニングは実際の日常生活場面において行うことが最も望ましいが,医療現場においては安全性や時間・コスト面から実現が容易ではない.そこで,こうした実生活の日常場面を医療現場で再現できるVR/ARを用いたリハビリテーションシステムの開発と活用が有用となる.
まず筆者らは,日常に則した課題シナリオとして街での買い物場面を設定した.理由としては,買う物を記銘し適切に想起する際に「記憶」,店や商品を正しく選択する際に「注意」,用事を行う順番を計画し実行する際に「遂行機能」というように,さまざまな機能を同時に運用する場面であり,またほとんどの者が経験したことがあり,かつ今後も行うと考えられる生活場面であったからである.次に,パーソナルコンピュータ(PC)とタッチパネルディスプレイを用いた「VR買い物タスク」を開発し,認知機能低下のみられる患者に対して適用できることを示した1-3).また,本課題の成績は既存検査で評価した日常記憶や注意機能との関連を認め,これらの機能を総合的に測定し得ることを報告した1,2).本稿では,この知見を基盤とし,その発展形として取り組んできたいくつかの研究開発について紹介する.
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