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はじめに
「複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome;CRPS)をはじめとした難治性疼痛患者に対し,なぜ治療が必要なのか」という一見,当然な問いは,患者へのかかわり方を考えるうえで本質的な提題である.その解は,治療者の専門性や経験などにより異なるかもしれず,冒頭でまとめておきたい.
CRPSとは,器質的異常(筋萎縮,関節可動域制限,骨萎縮,皮膚萎縮,皮膚温変化)を呈すだけでなく,うつ状態や不眠など精神障害や生活上のストレスと対峙する環境問題など複雑な病因を伴う多因子性障害である.加えて,原因究明が困難で難治性,重症化しやすいなどの特徴から難治性疼痛とされる.そのため,どの障害に焦点を当てた治療を行うかは診療科の専門性が関与し,重症度の見立てが異なれば治療の必要性や意義の捉え方に違いが生まれることもある.
中等度以上の慢性痛を有しても,本人が痛みに特段困っていないため治療を求めない人がいることは知られている1).一方,同程度の痛みであっても自らの痛みを病として問題視したり,痛みの原因を不安視し,苦悩を強め複数の医療機関への受診を繰り返す人もいる.治療者側の視点では,痛みの存在だけでなく,身体機能や精神機能の障害がより強い場合に治療の必要性を感じる.つまり,患者が受診した際,治療者に期待する何らかのニーズが存在するわけだが,“患者のニーズ”と“治療者が提供したいこと,提供できること”は必ずしも一致せず,両者に乖離が生じることも少なくない.「痛みの原因を知りたい」,「痛みを治したい」という患者のニーズに十分には応えられない場合,「痛みはあるが充実した生活を送れるようになった」という回復像を治療者から提示し,両者の乖離への擦り合わせが必要となる.その際,CRPS患者の重症化に関与する精神障害や環境問題の是正など精神医療が重要な役割を担う.本稿では,難治性疼痛患者に対する精神科病院における集学的治療の取り組みについて紹介する.
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