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はじめに
1985年英国のBaker博士は経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation;TMS)を開発し,非侵襲的に大脳刺激ができることを示した1).その発明は脳機能の解明,中枢神経系の障害の評価に用いられ,日本においても検査機器として保険適用となっている.また反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation;rTMS)が2000年ごろに登場し,さまざまな神経疾患の治療に応用され有効性が報告されている2).米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)が2008年,2013年にrTMS2機種に対し,うつ病治療の認可を行い,その後も同様の機器に認可をしている.日本においては,うつ病治療器として米国製NeuroStarが2017年9月に承認され,2019年6月に保険償還されたが,保険点数が低いのと,施設基準が厳しいため,治療がまったく広がっていない状況である.一方,米国では,累積20万人を超えるうつ病患者がrTMS治療を受けたとされている.
rTMSの副作用としては痙攣発作が代表的であるが,実際にrTMSによって痙攣発作を引き起こす危険性は非常に低い3).刺激条件にもよるが,てんかんの患者にrTMSを施行しても痙攣発作を起こすことは稀である.われわれは安静時運動閾値の100%以下でしか刺激していないので,400例以上施行して,まだけいれん発作を起こしたことがない.頭部に金属が入っている患者,心臓ペースメーカーが入っている患者,妊婦,小児,失神を繰り返す患者,脳神経外科処置を受けたことのある患者などに対しては禁忌または注意が必要である.2001年にWassermannら3)が安全性のガイドラインを出版し,2009年にRossiら4)が改訂を行ったが,世界的にもrTMSの安全性の高さ,重大な有害事象がないことが証明されつつあると考えられる.この安全性に関するガイドラインに沿った使用が望ましい.
一次運動野電気刺激療法(electrical motor cortex stimulation;EMCS)は1990年に日本で見出されて世界に広まった治療法である5).その有効性は約50%とされているが,大規模二重盲検試験などは存在しない6).その除痛のメカニズムは完全には明らかにされていないが,一次運動野を刺激することで視床,帯状回,前頭葉眼窩面,脳幹などが賦活化されて,疼痛閾値を上げて,また疼痛の情動面に作用して,包括的に除痛するのでないかと機能的画像研究で考察されている7).EMCSの非侵襲的手法がrTMSとわれわれは考えている.神経障害性疼痛(neuropathic pain;NP)に対しては,欧州において,deepTMS,NexstimがCEマークを取得しており,欧州からのガイドラインでは,疼痛治療としての高頻度rTMSはレベルAとされている2).しかし効果は一時的であり,responder割合は20〜50%である.Responderの患者を特定し,繰り返しrTMSすれば非侵襲な治療となり得る.われわれは,在宅で簡便にrTMSを繰り返すシステムの開発を行い,2015年12月〜2017年3月に医師主導治験を施行したので後述する.
米国では,麻薬乱用を減らすためにrTMSに対する期待が高まっている.Leungら8)はNPなどに対する有効性を後方視的に検討し,大変有用であると報告している.
日本では,EMCSが始まった1990年代は,NPの治療薬がなく,医師から「あなたの疼痛に出せる薬はありません」という説明がよくなされていた.それに対して,患者は絶望感に打ちひしがれていた.なかには痛みに苛まれて自殺をされた方もいた.しかし1999年に完全埋め込み型脊髄刺激療法が保険適用となり,2010年にNPを適応とするプレガバリンが発売されてから,後を追うように,トラマドール,デュロキセチン,ミロガバリンなどの薬が発売または適応拡大されて,NP患者にとって,治療の選択肢が増えた.最近もNP患者はいるが,それらの薬の発売前と比べると痛みの程度は明らかに軽くなっている.
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