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はじめに
諸外国に比して精神科病床数の多さ(約33万床—1000人/2.6床,2020年厚労省)と平均在院日数の長さ(285日,2018年厚労省),さらには多剤併用療法や身体拘束の問題などが山積するわが国の精神保健医療福祉であるが,このたびのテーマであるピアサポート(精神疾患を経験した人が,同じ経験や状況を共有する仲間同士の支え合い)1)活動の動向は,そのような現状の変革に向けた専門家主導のアプローチから地域も巻き込んだ当事者との共同,さらには当事者主導の時代の幕開けであり,それに向けた重要な地殻変動(パラダイムシフト)の一つと捉えたい.
筆者の現場経験(1978年〜)を振り返っても,当時は「上申」という言葉に象徴されるように,スタッフが持つすべての診療情報を精神科医が上申という形で掌握し,スタッフは主治医の判断と指示を拠り所に業務をすすめる典型的な医師主導の治療システムが成り立っていた.そして,「ストレス脆弱性モデル」を前提に患者には負荷を与えないという大義名分により,病名も服薬している薬の名前も伏せるという典型的な保護的,管理的な医療が幅をきかせ,現在の障害者総合支援法のような「福祉法」がない時代でもあり,受診受療援助から入院治療,そして,退院支援や就労支援,さらには家族や当事者活動のサポートもすべて精神病院が丸抱えでやっていた世代としては隔世の感がある.特にこのたびのテーマ「ピアサポート」にかかわる「当事者研究」は,精神障害を持つ当事者同士が,お互いの経験や情報を持ち寄り,生活課題の解決,解消に向け成果を共有する対話的活動として注目されており,この活動が精神障害者リハビリテーションの分野で関心をもたれ,臨床における活用の模索がなされていることも時代の変化を感じる.
このたびは,精神保健医療福祉の動向とピアサポートの歴史を概観するなかで,ピアサポート活動が果たしてきた役割と意義を再確認しながら現状と課題,そして,ピアサポートとしての当事者研究とピアSSTの可能性について言及をしたい.
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