Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
広津和郎の『風雨強かるべし』—昭和初期の脳卒中患者
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.1130
発行日 2019年11月10日
Published Date 2019/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201802
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昭和8年から翌9年にかけて発表された広津和郎の『風雨強かるべし』(岩波書店)には,飯島千太という銀行の元頭取が脳卒中を患ったときの状況が描かれている.
千太は,それまで経営していた銀行が潰れたために千駄ヶ谷の邸宅を引き払って東中野の貸家に移っていたが,9月も間近なある朝,突然,脳溢血で倒れたのである.その日千太は,「縁側の軒にかけてある,彼がいつでも庭いじりの時かぶる経木真田の帽子を取ろうと,手をのばした瞬間ふらふらとなり,屈むようにしたかと思うと,右の方へ,丁度足も肩もぐちゃりと潰れでもしたようにのめった」.家人が駆けつけると,「右を下にして倒れながら,左の手を力なく上下に動かしていた」が,「頭が,頭が」と言うだけで,「口からその朝食べたものが嘔き出されていた」.
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