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このたび沖縄県立中部病院の卒業生である谷口先生の手によって,感染症の学習を身近なものにしてくれる素晴らしい本が発刊された.「感染症をわかるようになりたい.でも繰り返して勉強してもなぜかうまく頭に入らない」と悩んでいる人は少なくないと思う.私自身も若い頃そのような数年間を過ごした経験をもつ一人である.感染症のとっつきにくさの原因の一つは,“相手(=原因微生物)の顔”が見えないことではないだろうか.臨床は五感を働かせて進めてゆくものであるから,もし自分の眼で原因微生物の姿を見ながら診療を進めることができれば,感染症診療はずいぶん身近に感じられるはずである.この本はグラム染色の素晴らしさ,特にグラム染色が臨床上の方針決定に直結する重要な情報源となることを教えてくれる.
すべての症例が問題形式になっており,見開き2ページが問題に,3ページ目以降が解説にあてられている.問題文の右ページには検体のグラム染色写真が示されていて,読者は病歴,身体所見,初期検査のデータ,そしてグラム染色像を見ながら,「さあどうしよう?」と検査や治療の方針を考える,という仕様になっている.抗菌薬を始めるべきなのか,もし開始するならどの薬剤を選ぶのか,という判断にとどまらず,投与中の抗菌薬は効いているのか,続けてよいのか,変更すべきなのかなど,グラム染色の情報を基に考えを進めてゆく手順が丁寧に解説されている.そこでは感染症診療の基本事項や思考過程が症例ごとに省略されることなく何度も述べられていて,読者は症例をこなしながら繰り返して頭に叩き込むことができる.谷口先生の工夫を強く感じるのは抗菌薬の解説である.一つ一つの薬剤が症例に散りばめられて登場する.本をすべて読み終わってみると,いつの間にか抗菌薬もすべて勉強し終わっているという巧みな構成となっている.
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