Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
筒井康隆の『乱調人間大研究』—その病跡学的な側面
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.758
発行日 2017年7月10日
Published Date 2017/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201034
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昭和47年に筒井康隆が発表した『乱調人間大研究』(『筒井康隆全集・第13巻』,新潮社)の第7章「気ちがいと紙一重」には,筒井の病跡学的な見解が示されている.
この作品の冒頭部分で,『天才と狂人は紙一重』という諺は事実だそうである」と語る筒井は,アリストテレスの「狂気を混えない偉大な魂はない」という言葉をはじめ,ショーペンハウエルの「天才は正常よりも狂気に近い」という言葉や,パスカルの「極端な知力は極端な狂気と,きわめて似たものだ」といった言葉を紹介しながら,「実際に精神病患者だった天才は,いっぱいいる」として,次のような例を挙げている.1)「ドストエフスキーは癲癇だった.倒れて口から泡を吹くという発作をよく起した」.2)「ストリンドベルヒは精神分裂病.嫉妬妄想のために『痴人の告白』が生れた」.3)「ゴッホの場合は精神分裂病とも,癲癇質によるものともいわれている.彼は片方の耳を剃刀で落して封筒に入れ,売春婦のところへ持っていき,最後はピストル自殺をした」.4)「ニーチェは梅毒だった.『ツァラトゥストラ』を書いたのは精神病院へ入院する数年前,つまり梅毒の潜伏期だった」.5)「モーパッサンも梅毒.小さい木の枝を折って,これを植えればモーパッサンのせがれが生えてくるといったそうである」.6)「梅毒の音楽家としてはシューマンがいる」.7)「ボードレールはアルコール中毒.梅毒にもかかっていたという説がある」.8)「エネルギーの保存の法則を発見したマイヤーは偏執的で躁鬱的でしかも分裂的で,つまりあらゆる発作をすべて起し,精神病院に入院した」.
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