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I.緒言
今日の精神医療の体系は薬物療法とともに,生活指導,レクリエーション療法,作業療法など,社会復帰のための訓練過程を取っていることは,既に一般周知の事実であり,私自身の経験を通してみても,作業療法が今日のように中心的課題として精神医療体系の中で論じられたことはかつてなかったように思われる。もちろん,この背景には久しく続いた大学精神医学のありかたに対するきびしい反省や,終戦後に精神医療の中心となった薬物療法に対する批判や,さらには地域医療といった概念と結びついて病院精神医学に対する関心がいっそう高まってきた事実があることは否定できないように思われる。
しかし,現在のわが国の精神病院が経営主体の相違や,その立地条件や規模の格差や,また設立以来歩んできた歴史の変遷や施設そのものの内容の変化等々,数々の条件に制約され,左右されて上述の精神医療体系のどの部分かに重点を置かざるをえないといった色合いのちがいを持っていることもまた事実であろう。私は思う,作業療法も広く精神療法の意味を持つものであってみれば,まず病院自体の治療的雰囲気を問題としないわけにはいかないであろうと。換言すればこの治療を実施していく場の雰囲気といったものがまず考えられねばならないであろうが,しかしこの雰囲気の形成たるや一朝一夕にして実るものではないのであり,このようなことの難しさを本当に理解できる人は一握りの臨床医に限られるのではないかと。さらに言い換えれば,組織の未熟な病院でこうした実践をそれこそ,身をもって経験した人でなければ充分には理解されないではないかとさえ思うのであり,とくに経営主体が公的である場合に見られるように,院長には経済権も人事権もなく,大多数の職員はその公的団体所属の意識において仕事に励み,患者のために,あるいは病院のためにといった意識の乏しいような場合は,言うも愚かな現実であろう。
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