Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
太宰治の『彼は昔の彼ならず』—病的天才としての自己像
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.376
発行日 2017年4月10日
Published Date 2017/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200925
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昭和9年に発表された『彼は昔の彼ならず』(新潮社)という短編は,太宰治が,天才と狂気の関係という病跡学的な問題に関心を寄せていたことを示唆する作品である.
この作品の主人公は,木下という男に家を貸すのだが,この木下は,とんでもない大嘘つきだった.そもそも彼が最初に名乗った「自由天才流書道教授」という肩書自体,何か職業がなければ家を貸してもらえないことから思いついた嘘だったのだが,その後も木下は,「私はほんとに発明家ですよ」,「私は役者ですよ」,「私はほんとうは,文学書生なんですからね」など,主人公から問われるまま,出鱈目放題のことを言い募った.そればかりか木下は,同棲する女性をしょっちゅう変えて家賃すら払わないという,「どうしても普通でない」人間だったのである.
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