Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「海よりもまだ深く」—なんとかもちこたえているダメ男に光を当てる
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.735
発行日 2016年8月10日
Published Date 2016/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200692
- 有料閲覧
- 文献概要
「海よりもまだ深く」(監督/是枝裕和)というタイトルは,テレサ・テンの『別れの予感』(1987)の歌詞「海よりもまだ深く 空よりもまだ青く あなたをこれ以上愛するなんて 私にはできない」からとったもの.是枝の前作「海街diary」は,ダメな両親をもった子供たちを主人公とする物語であったが,本作の主人公は,妻子に逃げられたダメ男の良多(阿部寛)である.良多は15年前に文学賞を取ったが,その後は鳴かず飛ばず.現在は,小説の取材のためと言い張りながら,探偵事務所で働いている.
良多の楽しみは,月に一度,5万円の養育費と引き換えに元妻と暮らす一人息子の真悟に会うこと.その際,良多はミズノのグローブを買ってあげようと思い立ち,事務所の後輩から1万円を借りるが,母の淑子(樹木希林)からクラッシック音楽の鑑賞サークルに入っていると聞かされると,その1万円を「CDでも買いなよ」と言って小遣いとして渡してしまう.探偵として知り得た情報を使って犯罪まがいの裏の仕事に手を出すが,そこで稼いだ金もギャンブルですってしまう.結局,いつまでたっても養育費を払えず,プレゼントのグローブも買うことができない.衝動性を抑制できず,優先順位を守ることができないダメな父親ゆえ,11歳の真悟もこんな人間になりたくないとばかりに将来の夢を公務員と答える.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.