Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
柳田國男の『遠野物語拾遺』—神隠しと精神障害
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.542
発行日 2016年6月10日
Published Date 2016/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200634
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柳田國男が昭和10年に発表した『遠野物語拾遺』(新潮社)には,ある日忽然と村から姿を消した女性が,それから何年もして山中で村人と遭遇するという話がいくつか収められているが,この種の話には大別して二つの系統があるように思われる.
その一つは,男に誘拐されてそのまま男と暮らすようになったというもので,たとえば第109話は,夫婦喧嘩をした直後に行方不明になって神隠しに遭ったと言われていた女が,山に草刈りに行った村人と出会った時に,自分は山男に攫われてここに住んでいるが,夫や子供に一度会ってから死にたいと言ったという話である.また,次の第110話も,裏の畑に胡瓜を取りに行ったまま行方不明になった女房が,山に狩りに行った村人に,「あの時自分は山男に攫われて来てここに棲んでいる」,「家に帰ったら,私はこんな山の中に無事にいるからと両親に伝えてくれ」と頼んだという話である.
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