Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
トルストイの『幼年時代』—宗教的天才としての精神障害者
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.442
発行日 2016年5月10日
Published Date 2016/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200604
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1852年にトルストイ(1828〜1910)が発表した『幼年時代』(藤沼貴訳,岩波書店)は,トルストイの幼年期の思い出に基づく自伝的な作品であるが,そこには,「神がかりで放浪無宿のグリーシャ」という人物が登場する.
ある日,幼い主人公の家を訪れたグリーシャは,「年のころ50ばかり,青白い,おもながのあばたづらに,しらがを長くのばし,うすい赤ちゃけたあごひげをはやした男」だった.ひどく背の高い彼は,ぼろぼろの長着と法衣下に似たものを着て,手には大きな杖を握っていたが,部屋に入るなり,力いっぱいその杖で床をたたき,不気味で不自然な笑いをしたかと思うと,「ああ,せつない! かわいい者たちが…飛んでいっちまう」と,無意味で取り留めのない言葉を吐いた.
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