Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
病跡学者としてのウィリアム・ジェイムズ―『宗教的経験の諸相』第1講より
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.586
発行日 2014年6月10日
Published Date 2014/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110539
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わが国の夏目漱石にも大きな影響を与えた米国の哲学者ウィリアム・ジェイムズ(1842~1910)は,1902年に発表した『宗教的経験の諸相』(桝田啓三郎訳,岩波文庫)の第1講「宗教と神経学」の中で,宗教的な天才の病的特質について論じている.
ジェイムズはまず,「多くの天才たちが,その伝記の数々のページに永く記念されるに足る感銘ぶかいくさぐさの果実を結んでいるように,彼ら宗教的天才たちも,しばしば神経過敏症の徴候を示している.おそらく,他のいかなる領域の天才たちより以上にさえ,宗教の指導的人物たちは異常な心理の発作に襲われやすい素質をもっていたようである」と,宗教的な天才には,他の領域以上に病的な人間が多いという認識を述べる.ジェイムズは,宗教的な天才のことを,「きまって彼らは感受性が強く,たかぶりやすい感情をもつ人間であった.しばしば彼らは調和を欠いた内的生活をおくり,また,生涯のある時期には,憂鬱に陥っている.適度というものを知らず,強迫観念や固定観念にとりつかれがちであった.またしばしば,恍惚状態に陥って,声なき声を聴いたり,影なき影を見たりなどして,ふつう病理的なものの部類に入れられるあらゆる異常な徴候を示している」と,彼らが内的不均衡や憂うつ症,強迫観念や幻覚などの症状をもちやすい人間であると指摘する.しかもジェイムズは,「そのような病理学的な特徴こそ,しばしば,彼らに宗教的権威と宗教的感化とを与えている」と,こうした病理性こそが彼らのカリスマ性を産み出していると主張するのである.
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