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はじめに
人間社会において,コミュニケーション能力をもっとも阻害する要因は,言語機能の障害である.失語症(aphasia)は,大脳言語野(言語処理に関するプログラム)の損傷により,話す,聞く,読む,書くことに障害が表れる.構語障害(dysarthria)は,これらの中枢のプログラムは保持されているが,発話の際に使われる口唇,舌,咽頭筋,喉頭筋が適切に機能せず,「呂律が回らない」症状を生む.いわゆる錘体路が大脳皮質運動野から前核細胞にいたる,いずれかで損傷を受けることによるが,これらの構語にかかわる筋群は両側性支配を受けることが多いので,多発性脳梗塞などの両側性病変や脳幹病変で問題になりやすい.さらに小脳および小脳への入出力線維の損傷で失調性発語(dyspraxia of speech)がみられる.以上が,コミュニケーションにおいて,特に言語がかかわる(言語性コミュニケーション)主な機能的構造部位である.
一方,コミュニケーションのなかには,いわゆる非言語性コミュニケーションといわれる能力がある.社会的コミュニケーション(social communication)とも呼ばれる.表面的な言葉ではなく,言葉の背後にある話し手の意図を理解する能力やその場の状況を判断し,適切に対応する能力,自己を抑制し相手に配慮する能力,社会規範を遵守する能力もその1つである.前頭葉と右大脳半球が主座と考えられる.身振り,手振り,うなずき,視線の動きなど,いわゆるbody languageや表情認知,適切なコミュニケーションを行ううえでの,不安,うつ,易怒性などに対する感情のコントロールも社会的コミュニケーション能力を構成する要因となる.
また,円滑なコミュニケーションを行うためには,注意・遂行機能が求められる.注意の分散ができないことで,複数の人と意見を述べ合う,理解しあうことが困難となる.長く注意を持続できないことで,長時間の会話にはついていけなくなる.早い会話にもついていけない.その結果,話のタイミングを逸することもある.また,論理立てて話を進めることが困難となり,伝える内容は単純な事項に限られてくる.情報処理速度が低下する場合,話のスピードは低下し,たとえ理解できたとしても,判断には時間を要する.さらに,記憶機能が低下すれば,数日前にあった人を同定することができない,適切な話を始めることができない,相手からの過去の話題についていけないなどの問題が生じる.
本稿では,以上のコミュニケーションを構成するさまざまな要素のなかで,失語症,構語障害および社会的コミュニケーション障害についてのリハビリテーションのエビデンスについて,文献的考察を行う.本文で記載するリハビリテーション内容の勧告グレードは,本邦で2009年に発表された脳卒中治療ガイドライン20091)に準拠(グレードA:行うよう強く勧められる,グレードB:行うよう勧められる,グレードC1:行うことを考慮しても良いが,十分な科学的根拠がない,グレードC2:科学的根拠がないので,勧められない,グレードD:行わないように勧められる)し,報告されている論文のエビデンスレベルおよび筆者の経験からそれぞれ,勧告グレードを評定した.
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