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医学部を卒業してすぐ,母校の内科の大学院に入学した.いろんな研究グループの研究を見て歩き,もっとも惹かれたのが「呼吸調節研究グループ」であった.血中酸素,二酸化炭素濃度といったさまざまな情報が中枢神経系にインプットされ,その結果,呼吸運動・換気というアウトプットがある.その間の中枢機構はほとんどブラックボックスであり,それを解明しようという呼吸生理のグループであった.ただ内科の臨床研究グループであり基礎の教室ではないので,直接ブラックボックスを開けることはせず,その手法としてインプットをさまざまに変化させたときのアウトプットを観察し,ブラックボックスの中を想像するというものであった.時はまさに分子生物学や遺伝子解析全盛の時代で,ノックアウトマウスなどを使ったもっと直接的なアプローチで生命を解明しようという時代であった.したがって,多くの若い野心的な研究者にとって,そのようなブラックボックスを外から撫で回して中を想像するような研究はまだるっこしいと考えられていた.しかし自分にはそのような臨床生理学が自分の頭脳にフィットしとっても面白く感じられ,のめりこんでいった.
そんななか,そのような臨床生理の学問や研究を一番必要としていて取り組むのが熱心なのが,療法士を中心としたリハビリテーションの世界だと実感したのが,内科からリハビリテーション科に転科した理由の1つである.薬物療法中心の内科の世界だとどうしても標的分子があっての治療となる.ところがリハビリテーション医療の日常は,リハビリテーションというインプットを加えて,ADLというアウトプットみることの連続である.そのときの標的は漠然とした人体全体でありブラックボックスである.どのようなインプットを加えるかはかなりの部分で経験則に則っており,アウトプットを見ながら日々試行錯誤している.この試行錯誤の中からブラックボックスを少しでも解明し,アウトプットの向上に役立てようするのがまさに臨床生理学の真髄と思われる.
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