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はじめに
精神の障害(本稿では精神疾患と精神症状を含むものとする)の存在は,身体の障害に対するリハビリテーションの阻害因子1,2)とされてきた.例えばうつ状態を呈する患者の場合,意欲低下によるリハビリテーション効率の低下や拒否,微小念慮・妄想からくる訓練効果や自己身体機能への過小評価といった事態が想定できる.認知症患者においては,行動心理学的症候(behavioral psychological symptoms of dementia;BPSD)などによるリハビリテーションへの不参加や危険予測困難による易転倒性などがリハビリテーション場面で問題となる.うつと認知症にせん妄を加えた3項目は,老年症候群の主要項目に位置づけられている事実が示すとおり,特に高齢者において問題となりやすい精神の障害である3).
精神の障害に伴う患者の不利益の軽減をリハビリテーションという手法を介して医療者が試みるとき,ある種の倫理的ジレンマが生じ得る.高齢者のうつ病では,重症例であるほど,廃用症候群の予防を念頭に置いた身体的リハビリテーションの必要性が高いにもかかわらず,うつ症状自体のために積極的なリハビリテーションの実施が難しくなる.焦燥や攻撃性を伴う認知症・せん妄の場合,特に入院診療において,医療者は精神症状の影響を低減する努力を求められる一方で,薬物的介入の際には副作用にも十分に注意する義務があり,その上身体的抑制を極力用いない,という高度な判断が要求される.BPSDに対する薬物的介入は,焦燥や攻撃性に対する抗精神病薬使用について死亡リスク上昇の懸念が国内外で問題提起される状況にあり4,5),このような状況は医療者の倫理的ジレンマを潜在的に深める.
本稿では,リハビリテーション科と精神科で併診したうつ病と認知症の高齢者の自験例を通して,精神の障害による不利益を低減するためのリハビリテーション処方や,倫理的ジレンマを軽減し得る薬物療法の方略について,若干の私見を交えて概説する.
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