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医療の現場では臨床倫理の重要性が高まっているが,ただひたすらに “患者のために” という使命感から,医療従事者が “粉骨砕身,懸命に身を捧ぐ” という姿勢では対応しきれない倫理問題が頻発している。ジレンマ(dilemma)とは単なる “悩み” とは異なり,2つ以上の選択肢がある場合に「どちらかを選ぶと,どちらかが成り立たない」という事態に直面する板挟み状態である。そのため,責任感のある医療従事者ほど,倫理問題を自分独りで解決しようと抱え込んでしまい,倫理的感性(ethical sensitivity)の高い医療スタッフであれば時にはバーン・アウトしてしまう。また,重要な法律や倫理ガイドラインの存在を認識せずに,患者に善かれと思う “善意” からであったにしても,多職種で構成されたチームの介在しない,個人的な独断・独善によって思いやりが “思い込み” に変貌したスタンド・プレーがなされるなら,それは重大インシデントを招く。“いのちは尊い” ということは誰もがわかっていても,現場ではキレイごとや理想論では解決の糸口が見い出せない。“感情論” に振り回されることなく,根拠(reason)に根差した倫理的推論(ethical reasoning)のプロセスがたどれるように支援することが臨床倫理の実践においてきわめて重要である。もし倫理原則だけが抽象的に振りかざされるならば,それは医療現場に混乱をもたらすだけである。いったいどこまでが患者の権利で,どこからが “患者の我儘” なのかさえも分からなくなってしまうほど混沌とした臨床現場の倫理的ジレンマにいかにアプローチすべきか,本稿では,そのときに求められる倫理的推論のスキルを中心に概説する。
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