Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
上林暁の『同病相憐』―脳卒中患者の慰め
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.794
発行日 2014年8月10日
Published Date 2014/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110604
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昭和28年3月に上林暁が発表した『同病相憐』(『上林暁全集第10巻』,筑摩書房)には,ともに脳卒中を患った主人公と近所の酒屋・虎屋の主人との交友が描かれている.
主人公も虎屋も50歳で脳溢血の発作に襲われたのだが,初めて虎屋に会った時,主人公は,その不自由そうな足取りに驚いた.というのも,杖をつきながら歩いていた虎屋の左足首から先は萎え,やっとこさ足を引きずって,敷居を越えるほどだったからである.主人公も当時は左半身不随の身で,殊に左脚は痺れていたが,足を引きずって歩くようなことはなかった.それに対して虎屋は,病気になって今日でちょうど1年1か月10日目だが,主人公のような足の痺れはないと言う.そのため,主人公が「人によって,病気の現れ方が随分ちがうんですねえ.あなたは足を引きずるのに,僕は引きずらないし,僕は痺れてるのに,あなたは痺れてないし」と言うと,虎屋は「この病気くらい,幾通りも現れ方のある病気はないそうですよ.細かく分ければ,600幾通り,大きく分けても,60幾通りあるそうですから」と応じた.虎屋も,病気で物知りになっているような口ぶりである.
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