Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
上林暁の『この世の見直し』—脳卒中患者の外出恐怖
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.1010
発行日 2014年10月10日
Published Date 2014/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200005
- 有料閲覧
- 文献概要
昭和29年に上林暁が発表した『この世の見直し』(筑摩書房)は,50歳で「脳溢血」を患ってから3年目の心情を綴った作品である.
上林の場合,発症後しばらくの間は「自宅のまわりを歩くのが精々だった」が,それが半年ほど続いた後で,最寄りの国電駅界隈まで足を延ばせるようになって,それが1年半続いたという.したがって,上林が都心や郊外に遠出できるようになるまでには2年間を要したことになるが,その間,体力的には回復したのに遠出ができなかったのは,遠出をすることが怖かったからである.「脳溢血という病気の性質上,今の瞬間は何事がなくていても,次の瞬間にはいかなる事が起るかも知れない,一瞬にして命を失ってしまうかも知れないという不安に脅かされてならなかった」.
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.