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はじめに
脳卒中はわが国において,要介護者の原因疾患第1位であり,憂慮すべき国民病となっている.その後遺症は回復が難しく,社会復帰が困難なケースが多いことから,費やされる医療・介護費,家族の労力などの社会的損失は膨大である.現在,脳梗塞に対する積極的な回復が期待できる治療として,超急性期における血栓溶解療法があるが,時間的な制約から対象となるものは全体の数%にとどまっている.中枢神経の損傷により一度失われた日常生活動作(activities of daily living;ADL)の回復は,長期にわたるリハビリテーションに委ねられるが,残された機能の強化が主な目的である.しかし,神経幹細胞の発見を契機に神経再生へ向けた研究がここ20年余で急速に発展しており,これまで不可能とされてきた「神経機能の回復」を目指す,神経再生医療の希望の光が見出されてきた.
神経再生医療は,主に2つの方法に分けられる.1つは自己複製能と多分化能を有した内在性の神経幹細胞を何らかの方法で活性化させる方法,また,もう1つは外在性細胞を何らかの方法で移植し神経系細胞へと導く方法である.外在性細胞移植のドナー細胞としては,神経幹細胞,嗅神経鞘細胞(olfactory ensheathing cell;OEC),シュワン細胞などの神経系の細胞に加えて,胚性幹細胞(embryonic stem cell;ES細胞)や骨髄間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)も挙げられる.われわれは,神経系細胞を始めとする種々のドナー細胞から特に神経幹細胞などの幹細胞に注目し,基礎研究を展開してきた.近年では,臨床応用に最も近いと思われる骨髄由来の幹細胞をドナー細胞とした神経再生について研究を進め,基礎的研究成果を数多く報告してきた1,2,4-16).そのなかでも神経再生作用が特に強い骨髄間葉系幹細胞は,実験的脳梗塞に対し経静脈内投与においても著明な治療効果が認められることを明らかにした.これらの基礎研究結果に基づき,2007年1月より脳梗塞亜急性期の患者を対象とした自己骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与について,安全性と治療効果を検討する臨床研究を行い,良好な結果を得た3).現在はこの臨床研究の結果をもとに,治療効果を詳細に明らかにするため,2013年3月から大規模な医師主導第Ⅲ相治験を実施している(図1).
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