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はじめに
脊髄損傷は重篤な脊椎外傷疾患であり,四肢麻痺,膀胱直腸障害,呼吸障害,自律神経障害,脊髄障害性疼痛など,多様な症状を呈する重篤で永続的な脊椎外傷疾患である.本邦における脊髄損傷患者の年間新規発生数は5,000〜6,000人であり,累積患者数は20万人と多くの患者が後遺症に苦しんでいる.1990年代では受傷時年齢は20歳前後と60歳前後に二極化したピーク分布であったが,近年では高齢者の平地転倒による受傷が著しく増加している1,2).脊髄損傷後の後遺症の回復は難しく,社会復帰が困難なケースが多いことから,家族の介護負担,医療・介護費などの社会的損失は膨大となり,患者,家族を含めたその後の人生設計の大幅な変更を余儀なくされる.
中枢神経の損傷により一度失われた神経機能は回復しないとされ,これまでは長期リハビリテーションによる残存機能の強化が主な治療方針であった.しかし,1990年代後半の神経幹細胞の発見を契機に,21世紀に入ると神経再生へ向けた研究が急速に発展してきた.今や,「神経機能の回復」をめざすことが可能であり,これまで不可能とされてきた神経再生医療が現実のものとなりつつある.
筆者らは1990年代より,脊髄損傷をはじめとする多くの神経疾患に対してさまざまな細胞を用いた細胞移植療法による再生医療の研究を行ってきた.そのなかで骨髄中に含まれる骨髄間葉系幹細胞(mesenchymal stern cell:MSC)の経静脈的投与(MSC治療)による良好な治療効果を報告してきた3-5).これらの良好な研究結果に基づき,2014〜2017年に,亜急性期脊髄損傷患者に対する自己MSCの静脈内投与の医師主導治験を行い(表)6),その結果を踏まえ,2018年12月に厚生労働省から「脊髄損傷の治療に用いる自己骨髄間葉系幹細胞(治験薬識別コード:STRO1)」について,「条件及び期限付承認」を取得した(製品名:ステミラック®注).札幌医科大学附属病院では,2019年7月から「ステミラック®注」を臨床の現場で使用している(図1)7).
本稿では,「ステミラック®注」がもつ再生医療等製品としての特徴について述べるとともに,脊髄損傷再生治療後のリハビリテーションについて概説する.
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