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はじめに
リハビリテーションを総合的に展開しようとすれば,「労働及び雇用」分野を省いてならないことは本誌読者であれば百も承知であろう.教科書風に言えば,「職業リハビリテーション」は常にリハビリテーションの主領域の一つに位置付けられ,リハビリテーションのゴールとも目されてきた.繰り返しになるが,障害のある人の「労働及び雇用」(本稿では,障害者権利条約第27条のタイトルである「労働及び雇用」をそのまま用いる)が重要分野であることは論を争うまい.
ところで,この「論を争うまい」の「労働及び雇用」分野について,リハビリテーション関係者の間で案外と正確に認識されていないことに気付かされる.制度面などの仔細な知識は別として,あまりの問題意識の希薄さに一抹の不安と危惧を覚える.例えば,「日本の障害のある人のうち,何らかの仕事に就いている人はどれくらい存在するでしょう」の問いに,きちんとした返答は少ない.「障害のある人のうち雇用されている人は一割にも満たないのです」と説くと,大抵は驚きの反応を示す.それぞれが持ち場の専門分野で尽力すべきは言うまでもないが,一方で「木を見て森を見ず」では困る.障害のある人に向き合うとき,一緒に将来の方向を考えることを含めて,いわゆる「人間丸ごと」の視点で接することが肝要となろう.人間丸ごとの視点があれば,自ずと他分野との連携の接合断面が広がり,結果として自分たちの立ち位置や実践上の役割もみえてこよう.ここにきて,「木を見て森を見ず」どころか「枝葉を見て森を見ず」の傾向が強まっているような気がしてならない.リハビリテーションをより本格的に進展させていくためにもぜひとも「労働及び雇用」分野へも関心を深めていただきたい.
さて,既に気付かれているかもしれないが,本誌の特集テーマである「社会参加と就労支援」は決して目新しくない.平凡そのものである.しかし,平凡の内にはしばしば本質問題が潜み,実際にも重要なテーマでありながらあるべき姿にたどり着けないでいる.看過できないのは,障害当事者の多くから事態の好転を願う声が絶えないことである.平凡さの印象とは別に,本テーマに込められた意味は重く,好転を見ない限り幾度繰り返されてもいいように思う.
なお,「労働及び雇用」の重要性は国際的にも共有されている.障害者権利条約の分野別条項においては,教育に次いで「労働及び雇用」に多くの文字数を割き,またインチョン戦略(国連ESCAP策定)においても,設定された10のゴールのうち,第一番目のゴールに「貧困を削減し,労働及び雇用の見通しを改善すること」が掲げられている.
本来,「労働及び雇用」には自営業も含まれるが,本稿においては紙幅の関係もあり,福祉的就労と雇用に重点を置いた構成になっていることをあらかじめ断っておく.
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