Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「脳男」―感情表出障害を抱えながら人知れず悪と闘う
二通 諭
1
1札幌学院大学文学部人間科学科
pp.783
発行日 2013年8月10日
Published Date 2013/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110220
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「脳男」(監督/瀧本智行)の主人公鈴木一郎=脳男(生田斗真)は,印象論で語ることを許してもらえるなら,自閉症スペクトラム障害に属しており,見たものを瞬時に記憶する超人的な能力はサヴァン症候群を想起させる.事実,同名の原作では,自閉症圏の人物として扱われており,サヴァン症候群の可能性が示唆されている.自閉症圏ゆえ感覚過敏だと思いきや,脳男の場合は,過敏とは正反対の無痛症である.襲ってきた自動車に跳ねられても痛みを感じない.骨折して身体が変形しても,なお敵に立ち向かう.類い稀な身体能力をもつが,感情を表出することはない.さながら無機質な戦闘用ロボットである.
脳男の思考パターンは,自閉症圏の人たちがしばしば見せる特徴と重なる.すなわち,善か悪か,白か黒かという二分法的思考によって判断するのである.例えば,警察の留置場において隣の房から「婆さんひとりくらい殺してもたいしたことはない」といったような話し声が聞こえてくると,翌朝,話の主を容赦なく痛めつける.口から出まかせの与太話かもしれないのに,言葉を文字どおり受けとめ,ただちに正義の鉄槌を下すのだ.
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