Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ツヴァイクの『デーモンとの闘争』―我が心の内なる魔神
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.782
発行日 2013年8月10日
Published Date 2013/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110219
- 有料閲覧
- 文献概要
シュテファン・ツヴァイク(1881-1942)が1925年に発表した『デーモンとの闘争』(今井寛,小宮曠三,杉浦博訳,みすず書房)は,ヘルダーリン,クライスト,ニーチェという3人の病的な天才の評伝であるが,ツヴァイクはこの3人を「デーモンによって引きずり落された詩人のタイプ」とみなして,「彼らはより高い力,デモーニッシュな力の奴隷であり,その力に取り憑かれた狂乱者」と語っている.
そもそも,「人間各人に根元的かつ本来的に生れついた焦燥をデモーニッシュなものと呼ぶ」ツヴァイクは,デーモンと創作の関係を,次のように強調する.「人間はこの焦燥のために自分自身から抜け出し,自分自身を超えて無限の境へ,根源的な世界へ駆り立てられる」,「創作にたずさわる人々の内部では,この焦燥がその日その日の作品に対する不満足という形をとって創造的にはたらきつづける」,「デーモンがひとりの詩人の内部で暴君的な猛威を振るう場合にこそ,また芸術の一特殊形態も,火柱が立ちのぼるように生れ出でる」,「デーモンをうまく御し得ない人々,みずからがデモーニッシュな本性の人々を,すさまじいまでの焦燥で満たし,彼らの手から意志の方向舵を強引にもぎ取ってしまう」.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.