Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ヘッセの『眠られぬ夜』―不眠症の効用
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.490
発行日 2013年5月10日
Published Date 2013/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110124
- 有料閲覧
- 文献概要
1900年,ヘッセが23歳の時に発表した『眠られぬ夜』(岡田朝雄訳,『地獄は克服できる』所収,草思社)には,不眠症の効用に関するヘッセ特有の考え方が示されている.
このエッセイの中でヘッセは,入眠障害を中心とする不眠症者が置かれた状況を,「すべてのものが眠くなる時間がきて,どんなかすかな風も,壁紙のうしろを流れ落ちるどんなこまかい漆喰の粒の音もはっきり聞こえるようになり,音が大きくなり,君の五感を刺激する.それで全然眠れない」と,詩的イメージで表現する.「転々と寝返りを打ったり,立ち上がったり,また横になったりしても何の役にも立たない.それは君が,君自身からどうしても逃れることのできない時間のひとつである.想念と思い出が,君の心を支配する.そして,ふだんなら話をしてそれらを消し去ってくれるような話し相手もいない」.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.