Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
芥川龍之介の『俊寛』―障害受容的な心理
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.672
発行日 2001年7月10日
Published Date 2001/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109542
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大正10年に発表された芥川龍之介の『俊寛』には,咎なくて鬼界が島に流された僧俊寛の障害受容的な心理が描かれている.
俊寛は平安時代末期,鹿ヶ谷事件に連座して,藤原成経や平康頼とともに流罪となるが,成経らは赦免されたのに,俊寛一人は島に残される.しかも,そんな俊寛をかつての召人有王が訪ね,京都にあった彼の屋形や山荘は平家に奪われ,妻子も既に亡くなって,娘は奈良の叔母宅に引き取られたと知らせるのである.だが,わが身に降りかかった数々の不幸を聞かされた俊寛は,「この娑婆世界には,いちいち泣いては泣き尽くせぬほど,悲しいことがたくさんある」と言いながら,淋しそうな微笑を浮かべて,次のように語る,「女房も死ぬ.若も死ぬ.姫には一生会えぬかも知れぬ.屋形や山荘もおれの物ではない.おれはひとり離れ島に老いの来るのを待っている.―これがおれの今のさまじゃ.が,この苦艱を受けているのは,何もおれ一人に限ったことではない.おれ一人衆苦の大海に没在していると考えるのは,仏弟子にも以合わぬ増長慢じゃ」.
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